彼女との馴れ初めを、

ぼくは今の今まで忘れていたらしい。いつも同じようなシチュエーションでの逢瀬だし、やることも変わらないせいか。ぼくばかりが先導して事を調節して来たように思い込んで来たけれど、どうやらそれは ぼくがお望みの偏見だったらしい。例えば、あの人の意思を躙り潰さぬよう、一手進むごとに面を仰いで あの人の気持ちを確かめながら、慎重に一歩ずつ近づいて行ったことなど。でも、そんな優しさだけだったら、キスやハグ止まりで、今みたいな侵略の関係にまで行かなかったに違いない。あの彼女からの強引な一押しがなければね。ぼくが前に書いた意味深な文章は、これを含意していたんだな。それは強姦ともいえるかもしれない。そして「ぼくが望んでいたことをしてくれた。」というくだりは 自己防衛のための正当化といえるかもしれない。何とでもいえるだろう。そして何を言っても本当のことなど 当事者であるぼくには 述べられないのだろう。あの人の濃紅にたつ香りや ミルクのごとき温もり、為てきたことが みんなしっくりと ぼくの体に収まっていった必然感も。涙も干上がり、抗いもぴたりと止み 逃げようとする脚も萎えてしまった。彼女が着けていた迷宮のような下着をぼくが剥いで彼女を押し倒したような気さえする。
最初は面白可笑しく話していたんだ、昨日は自慰も上手く行ったことだし。あまりに奥手で進捗の望めないぼくにやきもきを募らせた揚句、横に並んだぼくの手首を掴んで、胸や股などの局部に誘導されては、感電したかのように引っ込め、「誘ってるの?」と真面に問うて萎縮させるというやりとりを 何日かに分けて数回繰り返したのちに、彼女がぼくの掌を人形のように指の関節を好きな形に曲げて、あの部分に押し当てて為だしたことを。金縛りになって成す術がなく前方の宙空を睨んでいたぼくの盗まれた指先から伝わってくるその部分が、不思議なほど、ただの柔らかく熱い肉の感触なのに、彼女の体の動きや声を頼りにするのか、どこに触れているのか、自分の対応する部位をそう為れているかのように、まるで目の前にして触れているかのように視えて感じられた。その後は、もうケツに火が点いて、正面に飛び込んでいくしか道はなかったのは 言わずもがな。彼女の、ぼくに比べれば 短気と積極さ 熱情がなければ、女同士の媾いに本番がないとすれば、前々戯ともいえるペッティングに数時間も費やすのがぼくの定石なのだから。脚を閉じた状態から、自分で為るときですらも触らないような際の隅まで丹念に触れまわり、己づから求めてせがんで哀願してくるまで、核には触れない。決して強引にしないのが、ぼくの彼女への敬意と、自分がしてほしい慰撫であり、それを彼女も歓迎してくれていると信じていたし、その行き過ぎた焦らしプレイを楽しんでくれる時も あるにはあると思うけれど。